「レトロ消費」は懐かしさだけからくるのではない

スーパーの食品棚

日経新聞の記事「ヒットのクスリ」からの気づきです。

昔良く売れていた商品やサービスが、一旦下火になったり終売したりした後、再度ブームになるということがよくあります。いわゆる「レトロ消費」と呼ばれる事象です。
子供の頃慣れ親しんでいた商品・サービスから一度離れるのですが、大人になったときにふと見かけたことをきっかけに、懐かしさを覚えて思わず手にとってしまう。
このような経験をされた方はいらっしゃると思います。

しかし、最近の復刻商品やリバイバル商品を見ると、単に懐かしさから売れているのではなさそうです。

顧客価値を改めて認識する

「ヒットのクスリ」で取り上げられた事例は、いずれもタレントやアーティストがテレビ番組やSNSで発信し火がついたものでした。
有名人が発信することにより、それがきっかけとなり消費者が「手に入れたい」という欲求が生まれることはよくあります。これは、レトロ消費や復刻商品に限ったことではありません。

改めて考えると、復刻商品が話題になるということは、時代を超えた何らかの顧客価値があるような気がします。

事例1:スペースアポロ

人気タレントの有吉弘行さんがテレビ番組で取り上げたのが、ナガイパン(広島市)が製造・販売していた「スペースアポロ」という菓子パンでした。
既に終売となっており、しかも販売していたのは昭和50年頃ということで足跡をたどるのも難しかったようです。
この番組をきっかけにフジパン(株)から2020年10月に期間限定で再発売されたのですが、好評につき2021年3月からは無期限で全国発売となりました。

このパンの中身は、スポンジケーキにミルク風味クリームとざらめをサンドしたというとてもシンプルなもので、パンというよりおやつにピッタリのお菓子といったほうが良い商品です。

この商品は広島という地方限定で販売されていたので、多くの人にとってはこの商品そのものの懐かしさはないかもしれません。ただし、パッケージや商品名、中身が類似の商品はありましたのでその点での懐かしさは感じられたと思われます。

類似商品も含め、過去にこの種の商品に触れたことがない新しい世代にとってはどうでしょう?
今は自家製のパン屋さんも増え、お店ごとに工夫をこらしたパンが売られていますが、逆にお菓子に近いようなシンプルなパンはあるようでないのかもしれません。

古い時代の価値は時代を経るにつれ嗜好も変化し、やがて一旦はその役目を終えることがあります。しかし、新しい世代にとって、真新しい顧客価値として認められることもまたありえることです。

事例2:ココアシガレット

シンガーソングライターのあいみょんさんがSNSで取り上げてバズり人気が再燃したのが、ココアシガレットという菓子です。
形状は紙巻たばこそっくりで、中身はハッカの香りとココアの風味が口の中で広がる砂糖菓子です。
発売は昭和26年といいますから70年の歴史を持つ商品で、私も食べたことがあります。
私もやりましたが、子供がスモーカーの真似をしてこの菓子を指に挟んでくゆらします。ちょっとした大人へのあこがれを体現させてくれる、そんなお菓子でした。

私のようにかつて消費した世代が懐かしがるのも事実ですが、若いあいみょんさんが取り上げているのがこの事例のミソです。
そこには世代を超えた絶対的な顧客価値があるということです。
それは「遊びゴコロ」や「消費の楽しさ」といったことではないでしょうか。このような商品もあるように見えてなかなかありません。
この商品を製造・販売している老舗駄菓子メーカーのオリオン(株)は大阪の会社で、パロディー菓子で有名です。
ココアシガレットの派生品として、加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」をモチーフにした「myCOS(マイコス)」なんて商品も発売し、アマゾンの食玩部門ランキングで1位を獲得しています。

「遊びゴコロ」や「消費の楽しさ」は時代や世代を超えて受け入れられる絶対的な顧客価値です。このような商品やサービスは、一度売上が下がっても何かのきっかけで復活することがあります。

事例3:ネスレのミロ

最後の事例は記事以外のところから、私の前職ネスレが販売する「ミロ」という商品についてです。
ミロは1973年に日本で発売された商品で、カルシウムや鉄分、基礎ビタミンなどが手軽に補給できる栄養機能食品として、主に成長期の子ども向けに販売されてきたました。ココア味の粉末飲料で牛乳などに溶かして飲みます。

ミロが突然売れ始めたのが2020年7月のこと。手軽に鉄分補給ができるという栄養機能が注目されたSNSでの発言がきっかけでした。(やはりここでもデジタルの力はあなどれません!)
需要急増で9月末に一旦販売を停止、11月中旬に販売を再開したものの品薄状態であることがさらなる需要を呼び、12月に当面の間の販売中止が発表されました。2021年3月、供給体制が整い再び販売が再開されました。

今回のブームを牽引したのは、30~40代の大人の女性。子供の頃にミロを飲んで味に馴染んでいたことや子供と一緒に飲むという親子飲用も着実に増えていたことが背景にあります。

それにしても元ネスレ社員である私は、「えっ!なんで今ごろまたミロが売れるの?」というのが正直な感想でした。
実際に市場調査会社のインテージによると、「ミロ」を含む麦芽飲料市場の販売金額は減少が続いており、2009~2019年の10年間ではおよそ4割も減少しているのです。販売のピークは過ぎていて、その役割を終えたかのように見えました。

「子供が飲んで良いものは大人が飲んでも良い」
あたり前のようですが、意外と気づかないものです。マーケティングの教科書では必ず「ターゲットの明確化」が叫ばれますが、必ずしも狙い通りにはいきません。

その商品が持つ顧客価値(ミロの場合は「手軽に栄養補給ができる」ということ)は狙いとするターゲット以外にも響くことがあるということです。

レコードプレイヤー

さいごに

今回紹介した商品以外でも、ほぼその役割を終えたと思われたアナログレコードが復権しつつあり、アメリカではCDの販売量を上回ったという事実もあります(注:現在の音楽媒体のメインプレイヤーは「配信」です)。
絶対的な顧客価値は時代や世代を超えて支持されます。終わったと思われた商品やサービスが復活することだって十分ありえるのです。

自社商品・サービスの顧客価値はなにかをしっかりと認識し、もし一旦売上が下がったとしても少し見方や考え方を変えることにより、常時復活のチャンスを模索することが重要です。

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